年齢を重ねると、「最近、会話が聞き取りにくい」「テレビの音量を上げないと聞こえない」と感じることはありませんか?これらは、加齢性難聴のサインかもしれません。加齢性難聴は、年齢による自然な変化として多くの人に起こりますが、「仕方ない」と放置してしまうと、生活の質や健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。本記事では、加齢性難聴について詳しく解説し、ご自身の聴覚に目を向けていただくきっかけになれば幸いです。
世界の難聴者数
世界保健機関(WHO)によると、世界人口の5%以上、4億3,000万人が難聴を抱えており、60歳以上の人では25%以上が難聴に悩まされていると報告されています*1。
日本の加齢性難聴者数と推移
日本でも高齢化が進む中、加齢性難聴者の数は増加傾向にあります。加齢による聴力の低下は高音域から40歳代で始まり、60歳代になると軽度難聴レベルまで聴力が低下、70歳をこえると中等度難聴レベルまで低下し、65-74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいると言われています*2。
あなたの身に何が起こっているのか
加齢性難聴は、年齢とともに耳の構造や機能が変化し、音を正確に捉える能力が衰える状態を指します。具体的には以下のような変化が起こります。
耳の構造と音の伝達の仕組み
- 外耳:耳介と外耳道からなり、音を集めて鼓膜に伝えます。
- 中耳:鼓膜と耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)から構成され、鼓膜の振動を増幅して内耳に伝えます。
- 内耳:蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる螺旋状の器官があり、音の振動を神経信号に変換します。
加齢による具体的な変化
- 鼓膜の変性:鼓膜が薄くなり、振動の伝達効率が低下します。
- 耳小骨の硬化:耳小骨が硬くなり、振動の増幅が不十分になります。
- 有毛細胞の損傷:蝸牛の中にある有毛細胞がダメージを受け、その数が減少したりします。有毛細胞は、音を感知したり、増幅したりする役割があるので、障害を受けると、音の情報をうまく脳に送ることができなくなります。
結果として起こる現象
- 高音域から聞こえにくくなる:人の声の子音部分(「サ」「シ」「ス」など)が聞き取りづらくなります。
- 音の歪み:音がぼやけたり、複数の音が区別しにくくなります。
- 言葉の理解力の低下:音自体は聞こえても、言葉の聞き取りや理解が難しくなります。
加齢性難聴の原因
加齢性難聴の主な原因は、老化による内耳や聴神経の変性です。しかし、以下の要因も影響を及ぼします。
- 遺伝的要因:家族に難聴の人がいる場合、リスクが高まる可能性があります。
- 長年の騒音曝露:大きな音に長期間さらされると、内耳の有毛細胞が損傷します。
- 生活習慣:
- 喫煙:血管を収縮させ、内耳への血流を妨げます。
- 過度の飲酒:内耳の機能を低下させる可能性があります。
- 不適切な食生活:栄養不足は細胞の再生能力を低下させます。
- 全身疾患:
- 糖尿病:血糖値の高い状態が続くと、血管が損傷しやすくなり、内耳の血流が悪化します。
- 高血圧:血圧の変動が内耳の微小血管に影響を及ぼします。
補聴器でどのような効果を期待できるか
加齢性難聴は完全に治すことは難しいですが、補聴器の装用により生活の質を大きく向上させることができます。
- 会話の理解度向上:人の声を増幅し、言葉の明瞭さを高めます。
- 環境音の再発見:鳥のさえずりや風の音など、聞こえにくくなっていた音を感じられます。
- 社会参加の促進:コミュニケーションが円滑になり、社会活動や趣味への参加意欲が高まります。
- 精神的な健康維持:聞こえのストレスが軽減され、精神的な安定が得られます。
- 認知機能の維持:音刺激により脳の活性化が促され、認知機能の低下を防ぐ効果が期待されます。
補聴器装用による認知機能低下の遅延効果
最新の研究によれば、補聴器の装用は認知機能の低下を遅らせる効果があるとされています。
- エビデンス:2023年に医学誌『The Lancet』に掲載された研究では、認知機能低下のリスクが高い高齢者群で、補聴器の装用などが認知機能の低下を3年間で48%遅らせたと報告されています*3。
- 研究の概要:
- 対象者:認知機能低下のリスクが高い70〜84歳の高齢者。
- 方法:補聴器装用群と健康教育のみの対照群に分け、3年間追跡調査。
- 結果:補聴器装用群では、認知機能の低下が有意に遅延。
この研究は、難聴の早期対策が認知症予防にもつながる可能性を示唆しています。
加齢性難聴の予防
完全に防ぐことは難しいですが、以下の対策で進行を遅らせることが期待できます。
- 適切な音量での視聴:イヤホンやヘッドホンの音量を控えめに設定します。
- 騒音環境を避ける:大音量の場所では耳栓を使用するなど、耳を保護します。
- 健康的な生活習慣:
- バランスの良い食事:ビタミンやミネラルを豊富に含む食品を摂取。
- 適度な運動:血流を促進し、内耳の健康を維持。
- 禁煙・節酒:血管を健康に保ちます。
- 定期的な聴力検査:早期発見・早期対策が重要です。
早めの受診が大切です
聞こえづらさを感じたら、放置せずに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
- 専門的な診断:聴力検査や耳の状態を詳しく調べてもらえます。
- 適切なアドバイス:補聴器の選択やリハビリテーションの提案を受けられます。
- 進行の抑制:早期対応により、難聴の進行を遅らせることが可能です。
まとめ
加齢性難聴は、多くの人が経験する自然な現象ですが、「年のせい」と諦めずに適切な対策を講じることで、生活の質を大きく向上させることができます。ご自身の聴覚に目を向け、早めに専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
- 世界保健機関(WHO). Deafness and hearing loss. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/deafness-and-hearing-loss
- 日本耳鼻咽喉科学会. 難聴について. https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/hearingloss/
- Lin FR, Pike JR, Albert MS, et al. Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (Achieve): a multicentre, randomised controlled trial. The Lancet. 2023;402(10404):786-797.
